特急と新幹線の2時間
僕の実家は北海道の札幌市にある。
母方の祖母も同じく札幌の出身で、熊本から遠路はるばるやってきた祖父と結ばれて、2人は最終的に北海道の白老町というところに落ち着いた。
人口およそ2万人弱。苫小牧市と登別市の間にあったと記憶している。
僕は祖母の家に行くのが好きだった。小学校の低学年くらいの頃の話だ。
札幌駅から『特急すずらん』に乗って、2時間と少し。祖母が札幌まで来ることが多かったので、その帰りに一緒に乗っていくことが多かった。
僕は漫画を読んだり、ゲームボーイ・カラーで遊んだりしながら、2時間を潰す。祖母はのんびりと座って、時折車内誌を読んでいた。
祖母は特急に乗る前、決まって何かを買ってくれた。キヨスクでお菓子とジュースを買ってくれたり、ロッテリアでハンバーガーのセットを買ってくれたりした。
それを食べながら過ごす2時間は、不思議とたいくつじゃなかった気がする。なんとなく非日常的というか、子供なりに電車を楽しんでいたのだろう。
僕は物心つく前から電車の絵本を読むのが好きだったらしい。今はてんで覚えてないし、普段使っている山手線の車両もわからないけど。
白老駅はこじんまりとした駅で、駅員がきっぷをモギってくれる。そんな素朴な雰囲気も好きだった。
特急きっぷを駅員に渡して駅を出ると、祖父が車で待っててくれていることが多かった。祖父の家から歩いて10分くらいもしないけど、今ならその気持ちがわかるような気もする。
僕は祖父母の家でゴロゴロしながら、連休を過ごした。
たまに車で外食に連れて行ってもらうこともあった。
その時、祖父は決まって『俺は目が悪いから、お店の看板が見えたら教えてくれ』と言う。僕は張り切って看板を探したものだった。
程なくして、僕が11の時に祖父は亡くなった。祖母は札幌の娘夫婦の家(つまり僕の実家だ)へ来て、白老の家は売られてしまった。それから、白老には行っていない。
あれから十余年が経っても、僕は電車の長距離移動のたびに、特急すずらんの2時間を思い出す。
今日は新幹線で、東京から新大阪へと向かっている。所要時間は2時間半。
指定席のテーブルを下ろして、駅弁を広げる。きっとこの時間は、ちょっとした冒険なのだ。目の前の景色も、そこに抱く感情も、あの時と何も変わらない。
まあ、強いて変わったことがあるとすればーーーー、
『いただきます』
僕は駅弁と一緒に取り出した缶ビールのプルタブを起こす。僕はお酒はあまり飲まないけど、新幹線の缶ビールは何故か美味い。
あとは車内誌代わりの電子書籍でも読んでいれば、大阪へはあっという間だ。
電車、いいですよね。