おおさきラジオ

すこしだけ大きく先を生きると、より美味しく召し上がれます。

射精のグルメ

金曜の夜に押し付けられた業務が全て終わる頃には、すっかり陽が上っていた。

会社の外に出ると、そこには既に休日があった。行き交う人々の殆どが観光客のようで、普段のサラリーマン達の洗練された動きに慣れていると、どこかもどかしさを覚える。

そうでなくとも、徹夜明けの身体には世界の何もかもが重たく感じた。まるで自分だけが世界に取り残されているかのようだった。稚拙な思い込みだと頭で理解をしていながらも、感情というのはなかなかどうして、すんなりと受け止めてくれない。

 

とにかく、僕は腹が減っていた。

会社内の自動販売機で1時間おきに缶コーヒーを買っていたので、口の中はえづきそうになるほどコーヒー臭く、全身がまともな食事を求めているのがわかった。

僕はごちゃごちゃと考えることをやめて、会社の近くにある牛丼屋に入った。24時間、いつでも温かい牛めしと味噌汁を提供してくれる。これがまともな食事でなければなんであろうか――。

 

席に着き、券売機で購入した牛めし(並)の食券を店員に渡すと、僕はようやく「ふう」と大きなため息をついた。温かいお茶を一口、また一口と飲むごとに、心も身体も落ち着いていくのがわかる。昨晩はどうなることかと思ったが、どうにかなったのだ。

世の中は案外、そういうふうに出来ている……。というか、『そういうふう』になるように頑張っている人達が数えきれないほどたくさんいて、そのおかげで成り立っている。

もっとも、そんな歯車の一員となれたとして、何一つ嬉しいという気持ちはないのだけど。

 

「オマタセァシマシタ」

『ちょういぇん』と書かれた名札を付けた店員が、牛めしと味噌汁を載せたお盆を僕の前に置く。

僕は牛めしに紅生姜を少しだけ載せて、わし、と大きな一口を頬張った。

 

 

「やあ」

口から食道をするりするりと通り抜けた牛めしが、胃の前に現れた。

「あら、ようやくマトモなお食事のおでましってわけね」

「待たせちゃってごめんね」

そう言いながら、牛めしは胃の頬を優しく撫でる。胃の肩がビクンと小さく跳ねるのを、牛めしは見逃さなかった。

「そんな安っぽい口説き方、求めてないんだけど」

口ではそういうものの、胃は物欲しそうにもじもじと身体を揺らしている。長くご無沙汰だったのだ。こういった少し露骨なくらいの口説き方をするほうが、かえって刺さるということを、牛めしは本能的に知っていた。

「ねえ、お邪魔していい?」

「……駄目、って言っても入ってくるんでしょ」

「よくわかってるじゃない」

牛めしの指が、胃の秘所に触れる。ぬる……とした感触は、とても「駄目」と言いたがっているようには思えなかった。

「入るね」

牛めしは自身をあてがうと、そのままゆっくりと奥へ沈めていく。

「っ」

小さく喘ぐ胃を気にも留めず、牛めしは自分のペースでナカに入っていった。

「全部入ったよ」

余裕そうな牛めしの声とは対象的に、胃はいっぱいいっぱいという様子だった。顔は紅潮し、目尻には僅かに涙を浮かべている。もはや相槌もままならない。

「動いていくからね」

そう言うと、牛めしはゆっくりと動き始めた。一回、また一回と自身を打ち付けるたび、胃は弓のように身体を反らせて感じている。

少しずつ、牛めしの息が荒くなってきていた。胃は最初こそツンツンとしていたのにもかかわらず、今は声を抑えもせずに、叫ぶように喘いでいた。

「ッ出る……!」

牛めしがひときわ大きく動いた直後、二人は同時に果てた。お互いがびくびくと震えているのを、お互いの身体で感じる。

二人はそのまま、一つになるように抱き合った。

 

 

「やあ」

牛めし精子が、胃の卵子の前に現れた。

「あら、ようやく来たのね」

「待たせちゃってごめんね」

そう言いながら、牛めし精子は胃の卵子の頬を優しく撫でる。胃の卵子の肩がビクンと小さく跳ねるのを、牛めし精子は見逃さなかった。

「そんな安っぽい口説き方、求めてないんだけど」

口ではそういうものの、胃の卵子は物欲しそうにもじもじと身体を揺らしている。長くご無沙汰だったのだ。こういった少し露骨なくらいの口説き方をするほうが、かえって刺さるということを、牛めし精子は本能的に知っていた。

「ねえ、お邪魔していい?」

「……駄目、って言っても入ってくるんでしょ」

「よくわかってるじゃない」

牛めし精子の指が、胃の卵子の秘所に触れる。ぬる……とした感触は、とても「駄目」と言いたがっているようには思えなかった。

「入るね」

牛めし精子は自身をあてがうと、そのままゆっくりと奥へ沈めていく。

「っ」

小さく喘ぐ胃の卵子を気にも留めず、牛めし精子は自分のペースでナカに入っていった。

「全部入ったよ」

余裕そうな牛めし精子の声とは対象的に、胃の卵子はいっぱいいっぱいという様子だった。顔は紅潮し、目尻には僅かに涙を浮かべている。もはや相槌もままならない。

「動いていくからね」

そう言うと、牛めし精子はゆっくりと動き始めた。一回、また一回と自身を打ち付けるたび、胃の卵子は弓のように身体を反らせて感じている。

少しずつ、牛めし精子の息が荒くなってきていた。胃の卵子は最初こそツンツンとしていたのにもかかわらず、今は声を抑えもせずに、叫ぶように喘いでいた。

「ッ出る……!」

牛めし精子がひときわ大きく動いた直後、二人は同時に果てた。お互いがびくびくと震えているのを、お互いの身体で感じる。

二人はそのまま、一つになるように抱き合った。

 

 

「やあ」

牛めし精子精子が、胃の卵子卵子の前に現れた。

「あら、ようやく来たのね」

「待たせちゃってごめんね」

そう言いながら、牛めし精子精子は胃の卵子卵子の頬を優しく撫でる。胃の卵子卵子の肩がビクンと小さく跳ねるのを、牛めし精子精子は見逃さなかった。

 

 ◇

 

「やあ」

牛めし精子精子精子が、胃の卵子卵子卵子の前に現れた。

 

 

そうして、生命の神秘たる活動は無限に等しく繰り返されていき、体内で幾つもの世界を描いてゆく。

まあ、どういうことかというと、僕は牛めしを一口食べた瞬間に射精したということなんだ。

 

『ビュルルルルル! ビュビュル! んビュ……』

 

それに気付いた大学生風の男が口元を隠し、耐えきれずに「クフッ」と笑みを漏らす。

定食を食べていたギャルは、全く関心の無いニュアンスで「ヤバ」と呟いた。

ひょうきんものらしき中学男子が「かっけー!」と叫び、その横にいたメガネを掛けた男子が「ちょい、やめろって、お前まじで頭おかしいから」と笑いながら止める。

極めつけに店員(ちょういぇん君)が面倒臭そうにこちらを睨みつけてきたので、僕は思わず「タハハ……」と笑った。

 

「いや、なんか、っかしーな、こんなつもりじゃなかったんだけどな(笑)。あの、おしぼりだけもらえます? 自分でちゃんと、ええ、やりますんで。すみませんね」

僕はそう言いながら、照れ隠しで味噌汁を一口飲む。

 

『ビュルルルルル! ビュビュル! んビュ……』

 

僕は射精した。 

Obirux氏の『ゲームボーイマクロ』が届いた

皆さんは『ゲームボーイマクロ』をご存知ですか?

『ミクロ』ではなく『マクロ』。

ニンテンドーDS(主に『DSLite』)にゲームボーイアドバンスの下位互換性があることを利用し、2画面あるうちの上画面を取っ払い、ゲームボーイアドバンス専用機として改造する行為を指します。

 

個人的に製作したものがオークションサイトなどで扱われていたりしますが、とりわけクオリティが高いのが、イギリスの『Obirux』というアーティストが手がけるゲームボーイマクロ。

他にも様々なゲームのカスタマイズ品を製作している方で、いずれも素晴らしい完成度を誇っています。

 

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そんなObirux氏に製作を依頼してから、およそ半年。

ついに本日、僕の手元にゲームボーイマクロが届きました。

丁寧に梱包されたハードケースには、オーナーの名前入りのタグが添えられています。

 

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今回オーダーしたのは、初代ゲームボーイのカラーリングを模したモデル。

A・Bボタンは塗装でなく一から成形しているそうで、その完成度は既製品と見紛う出来。もともと上画面が付いていたとは思えません。

 

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また、ゲームボーイミクロの付属品によく似た、黒色の巾着ポーチが付属しているのも嬉しいポイント。気軽に持ち運ぶことが出来ます。

 

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この日のために、かつて遊べなかったタイトルをしこたま買い集めておきました。

しばらくはひたすらGBAタイトルを遊ぶ日々になりそうです。

特急と新幹線の2時間

僕の実家は北海道の札幌市にある。

母方の祖母も同じく札幌の出身で、熊本から遠路はるばるやってきた祖父と結ばれて、2人は最終的に北海道の白老町というところに落ち着いた。

人口およそ2万人弱。苫小牧市登別市の間にあったと記憶している。

 

僕は祖母の家に行くのが好きだった。小学校の低学年くらいの頃の話だ。

札幌駅から『特急すずらん』に乗って、2時間と少し。祖母が札幌まで来ることが多かったので、その帰りに一緒に乗っていくことが多かった。

僕は漫画を読んだり、ゲームボーイ・カラーで遊んだりしながら、2時間を潰す。祖母はのんびりと座って、時折車内誌を読んでいた。

 

祖母は特急に乗る前、決まって何かを買ってくれた。キヨスクでお菓子とジュースを買ってくれたり、ロッテリアハンバーガーのセットを買ってくれたりした。

それを食べながら過ごす2時間は、不思議とたいくつじゃなかった気がする。なんとなく非日常的というか、子供なりに電車を楽しんでいたのだろう。

僕は物心つく前から電車の絵本を読むのが好きだったらしい。今はてんで覚えてないし、普段使っている山手線の車両もわからないけど。

 

白老駅はこじんまりとした駅で、駅員がきっぷをモギってくれる。そんな素朴な雰囲気も好きだった。

特急きっぷを駅員に渡して駅を出ると、祖父が車で待っててくれていることが多かった。祖父の家から歩いて10分くらいもしないけど、今ならその気持ちがわかるような気もする。

僕は祖父母の家でゴロゴロしながら、連休を過ごした。

たまに車で外食に連れて行ってもらうこともあった。

その時、祖父は決まって『俺は目が悪いから、お店の看板が見えたら教えてくれ』と言う。僕は張り切って看板を探したものだった。

 

程なくして、僕が11の時に祖父は亡くなった。祖母は札幌の娘夫婦の家(つまり僕の実家だ)へ来て、白老の家は売られてしまった。それから、白老には行っていない。

 

 

 

あれから十余年が経っても、僕は電車の長距離移動のたびに、特急すずらんの2時間を思い出す。

 

今日は新幹線で、東京から新大阪へと向かっている。所要時間は2時間半。

指定席のテーブルを下ろして、駅弁を広げる。きっとこの時間は、ちょっとした冒険なのだ。目の前の景色も、そこに抱く感情も、あの時と何も変わらない。

まあ、強いて変わったことがあるとすればーーーー、

 

『いただきます』

 

僕は駅弁と一緒に取り出した缶ビールのプルタブを起こす。僕はお酒はあまり飲まないけど、新幹線の缶ビールは何故か美味い。

あとは車内誌代わりの電子書籍でも読んでいれば、大阪へはあっという間だ。

電車、いいですよね。